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大阪地方裁判所 昭和57年(ワ)1076号 判決

原告

京阪電気鉄道株式会社

右代表者

青木精太郎

右訴訟代理人

土橋忠一

坂東平

被告

乙田一男

右法定代理人親権者父

乙田力

同親権者母

乙田ハツ子

被告

乙田力

被告

乙田ハツ子

右被告三名訴訟代理人

坊野善宏

主文

一  被告乙田一男は、原告に対し、金二一八〇万円及びこれに対する昭和五五年二月二一日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告乙田力及び同乙田ハツ子に対する各請求はいずれもこれを棄却する。

三  訴訟費用は、原告に生じた費用の二分の一と被告乙田一男に生じた費用を同被告の負担とし、原告に生じたその余の費用と被告乙田力及び同乙田ハツ子に生じた費用を原告の負担とする。

四  この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一原告代理人は、「(一)被告三名は、原告に対し、各自金二一八〇万円及びこれに対する昭和五五年二月二一日から右支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。(二)訴訟費用は被告三名の負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求めた。

二被告三名代理人は、「(一)原告の請求をいずれも棄却する。(二)訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二  当事者の主張

一原告代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

1事故の発生

昭和五五年二月二〇日午後八時五九分頃大阪府枚方市天之川町二番四号において原告所有の軌道上を進行してきた淀屋橋駅発京都三条駅行急行電車(二〇〇二列車七両編成、運転士松村昭治、車掌武田清ほか乗客約一〇〇〇名乗車、以下「本件列車」という。)は、軌条上に置かれていた拳大の石に乗り上げ、同電車の前部二両が脱線転覆し、一両目は訴外田渕伝男方の庭に突つ込み全損、二両目は横転大破したが、その際、右田渕伝男方の建物等が損壊するとともに、一〇四名の乗客が負傷した(以下、「本件事故」という。)。

2被告乙田一男の責任

(一) 本件事故発生に至るまでの経過

(1) 被告乙田一男(以下、「被告一男」という。)は、本件事故当時○○市立第○中学校二年生であり、本件事故当日午後八時五〇分頃本件事故現場付近路上で、訴外R、Y、K及びM(以下、単にそれぞれ「R」、「Y」、「K」、「M」という。)と立話を始め、線路に物を置くとどうなつたか等の小学生の頃の経験を語り合つた。

(2) そのうち、被告一男ほか四名は、暗黙のうちに意思を相通じて軌条上に石塊などの障害物を置いて列車通過時の異常な変化を窺いみることを共謀し、Kが境界金網フェンスを乗り越え、本件事故現場の軌道敷内に入り、軌条に耳をつけるなどし、その後、Y、Mが順次軌道敷内に入り、Yはガムを丸めて、Mは軌道敷内から拳大の石一個を拾い、京都方面行きの軌条上にそれぞれ置き、その間、被告一男及びRらは境界金網フェンス際の道路上からフェンス内の者に「自動車が来たぞ。」などと周辺を見張つて声をかけるなどしているうちに、Mが置いた石が原因で本件事故が発生した。

(二) 被告一男の責任原因

(1) 本件事故は、被告一男が前記(一)の(2)記載のとおり乙田ら四名とともに軌条上に石塊などの障害物を置いて列車通過時の異常な変化を窺いみることを共謀した上、乙田が軌条上に置いた石が原因となつて発生したものであるから、被告一男には、共謀(故意)による共同不法行為責任があり、本件事故により生じた損害を賠償する義務がある。

(2) 仮に、そうでないとしても、被告一男としては、軌条上に石などを置けば通過する列車が脱線する危険があるから本件事故の発生を未然に防止するためMの置石行為を阻止又は排除すべき注意義務があり、また、少なくとも、Mらが軌道敷内に入ろうとした時に現場で見張り行為等をせずに、本件現場から退去すべき注意義務があつたにもかかわらず、これらに違反した結果本件事故が発生したのであるから、被告一男には、過失による不法行為責任があり、本件事故により生じた損害を賠償する義務がある。

3被告乙田力及び乙田ハツ子の責任

(一) 監督義務違反

被告乙田力(以下、「被告力」という。)及び同乙田ハツ子(以下、「被告ハツ子」という。)は、同一男の父母として、同人に対して、電車の軌道敷内への立入りや軌条上に置石をする等の危険な行為をしないよう、又は、こうした危険な行為をしようとする友達がいた時はこれを止めさせるよう注意を与えるとともに、かかる鉄道妨害行為の危険性及び被害の重大性について理解させるべき監護教育義務があるのに、右義務を尽くさず、被告一男の夜遊びを放任していた結果、本件事故が発生するに至つたものであるから、被告力及びハツ子は、同一男に対する監督義務違反による不法行為責任により、本件事故により生じた損害を賠償する義務がある。

(二) 重畳的債務引受又は連帯保証

仮に、前記(一)記載の責任が認められないとしても、被告力及び同ハツ子は、原告との間で、昭和五五年一二月一三日本件示談交渉の席において、被告一男が賠償すべき本件事故により発生した損害のうちの適正額について、重畳的に債務引受をする旨、又はその支払につき連帯保証する旨の合意をしたから、被告力及び同ハツ子は、適正額である原告Mら四少年及び両親らとの間で成立した示談金八四〇万円の範囲で、本件事故により生じた損害を賠償する義務がある。

4損害

本件事故により原告は、次のとおりの損害を受け、その額は、その合計(一億六一四六万四六〇二円)から、破損車両スクラップ売却代金(七三万八九三〇円)及び車両保険の支払金(五一〇〇万円)を差引いた一億〇九七二万五六七二円となつた。

(損害内訳)

(一) 土木関係 一五六五万五八〇六円

(1) 応急復旧工事 八七三万九〇〇〇円

(2) 永野川まくら木交換五五本 一一六万一七三一円

(3) PCまくら木交換一五〇本 二七一万二〇七五円

(4) 永野川橋補修 八六万八〇〇〇円

(5) 線路用地内事故関係撤去工事 一九八万円

(6) ネットフェンス修復工事 一九万五〇〇〇円

(二) 電気関係 三二九〇万九八〇四円

(1) 応急復旧工事 四九三万三五〇〇円

(2) 右同材料 一二一万三五〇七円

(3) 鉄柱建植に伴う軌道防護工事 一五六万一九四〇円

(4) 工事用照明 二一万五〇〇〇円

(5) 鉄柱建植二基 一八一六万六九四六円

(6) 信号機建植二基 六八一万八九一一円

(三) 車両関係 六九三八万三五四〇円

(1) 車両新造費(五五五四、五一五四号車) 五四八三万五七五八円

(2) 車両五両修理代 一四五四万七七八二円

(四) その他 四三五一万五四五二円

(1) 代行運送費 七五八万九七二六円

(2) 車両台車運搬費 九九万円

(3) 民家補償費 一七二一万六二〇〇円

(4) 負傷者治療費及び解決金 一七七一万九五二六円

合計 一億六一四六万四六〇二円

5本訴請求

よつて、原告は、被告三名に対し、各自本件損害のうち金二一八〇万円及びこれに対する本件事故の後である昭和五五年二月二一日から右支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二被告ら代理人は、請求の原因に対する答弁及び被告の主張として、次のとおり述べた。

1請求原因1記載の事実は認める。

2請求原因2の(一)の(1)記載の事実は認め、同(2)記載の事実は否認し、同(二)記載の点は争う。

レールに置石をすることにつき、被告一男ら五人の間に共謀の事実はなく、従つて、被告一男の見張りの事実もない。被告一男は、Mが大阪方面行きの軌条上に小石を置いた際、「やめとけ。やめとけ。」と言つたほどであり、Mが京都方面の軌条上に石を置いてあることには気付いていなかつた。

3請求原因3の(一)及び同(二)記載の事実は否認する。

4請求原因4記載の事実は知らない。

第三  証拠〈省略〉

理由

一  事故の発生

本件列車が、軌条上に置かれていた石を踏み、これが原因となつて脱線転覆し、本件事故が惹起したことについては当事者間に争いがない。

二  事故発生に至るまでの経緯

前記争いのない事実に、〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  被告一男は、本件事故当時○○市立○○中学校二年に在学する生徒であり(満一四歳六ヵ月)、本件事故発生に関連したK、M、Y、Rは、被告一男と同様○○中学二年に在学する遊び仲間であること。

(二)  被告一男は、昭和五五年二月二〇日、学校でK及びMから、夜自宅に訪問を受けることを、また、下校時に同じくYと夜ランニングをすることを約束し、午後七時半ころ、被告一男方に四人が集まり、テレビを見たり等しているうち、午後八時四〇分ころRから電話があり、四人でRと合流すべく外出し、大阪府枚方市天之川町二番四号の本件事故現場付近で五人になつたこと。

(三)  Rは、皆にバイクを盗んで乗ろうと持ちかけたが、皆が反対したのでRもあきらめたこと。

(四)  その後、Yが信号機のことを話題にしたことから、Rが「線路の上に石を置いたら火花が出るかも分からん。」と言い出し、被告一男は小学生の頃釘を置いたことがある旨、Yは五円玉を置いたことがある旨、Rも一円玉や五円玉を置いたことがある旨など、それぞれの経験を語り合ううち、誰からともなく、皆、電車が石を飛ばして通過して行く様子を見てみたいという雰囲気が出来てきたこと。

(五)  そうした状態の下で、Rは、Kに対し、石を置いて来るよう命じたところ、Kは皆に目だちたい気持もあつて原告所有の軌道敷内に境界金網フェンスを乗り越えて入り、京都方面行軌条に耳をつける等し、その後、Y、Mが順次軌道敷内に入り、Yは噛んでいたガムを丸めて京都方面行き軌条上に置き、Mは、軌道敷内から拳大の石を拾つて大阪方面行き及び京都方面行きの各軌条上にそれぞれ一個置いたこと。

(六)  この間、被告一男は、軌道敷内に入つている者の様子を概略承知しており、かつ、Rとともに軌道敷内に入つている者らが人に見られないよう「車が来たぞ。」等と注意を与えたりしたこと。

(七)  さらに、被告一男は、他の少年と同様、電車が石を飛ばして行くのを見たいと思つていたが、そのためには、石が大きすぎる場合には、あるいは電車脱線の危険もあると考え、Mが大阪方面行の軌条上にやや大きな石を置いたのに対して、「あれは止めろ。」と言い、Kがこれを排除したこと。

(八)  そのようにしているうち、午後八時五九分頃同所を通過しようとして時速約七五キロメートルで進行してきた淀屋橋駅発京都三条駅行急行電車(二〇〇二列車、七両編成、運転士松村昭治、車掌武田清ほか乗客約一〇〇〇名)が、軌条上に置かれていた石を踏み、これが端緒となつて同列車の車輪が浮き上がつたことが原因で、同列車は脱線し、本件事故が惹起されたこと。

以上の事実が認められ、〈反証排斥略〉、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。

三  被告一男の責任について

前記事実によると、被告一男は満一四歳六ヵ月の中学二年生であるから、行為の責任を弁識する能力を有することは明らかである。ところで、およそ、「一般に、列車の往復する軌条上に石等の障害物を置くと、通過する列車がこれを踏んだ場合、そのことが端緒となつて脱線転覆することがあるから、何人も、社会生活上かかる危険を生ぜしめる行為をしてはならない注意義務が存するけれども、単に、他人が置石をするのを傍観したりするのみでは、その傍観者に、右置石を認容、放置してはならない注意義務があるとまでは言えない。しかしながら、その傍観者において、置石をすれば、列車が火花を散らして石を跳ねとばして進行するのが面白い等これを行うような雰囲気を自ら醸成し、他者の行動を利用してこれを見ようと意図した結果なされた置石である等、その置石がなされたことについて特段の事情が存する場合には、その者と難も、これを容認、放置してはならない注意義務がある。」ものと解されるところ、これを本件についてみるに、前記認定事実によると、Yが信号機のことを話題にしたことから、Rが、「線路の上に石を置いたら火花が出るかも分からん。」と言い出し、被告一男は、小学生の頃、釘を置いたことがある旨話す等それぞれの経験を語り合ううち、皆、電車が石を飛ばして通過して行く様子を見たいという雰囲気が出来てきたのであつて、その雰囲気のもとで、Mが大阪方面行き及び京都方面行きの各軌条上にそれぞれ拳大の石を拾つて置いたのである。そして、被告一男も、他の少年と同様、電車が石を飛ばして行くのを見たいと思つていたが、そのためには、石が大きすぎる場合には、あるいは電車脱線の危険もあると考え、Mが大阪方面行の軌条上にやや大きな石を置いたのに対して、「あれは止めろ。」と言い、Kがこれを排除している等被告一男も加わつて、軌条の上に置石をして、列車がこれを跳ね飛ばすのを見たいという雰囲気を作り、被告一男ら五人の少年は、かかる意図のもとに、Mが、京都方面行軌条上に拳大の石一個を置いたのを容認、放置し、被告一男もこれを容認、放置して、列車の通過を待つていたものであり、置石行為によつて、列車の脱線事故が発生することまでは意欲していなかつたが、拳大程度の大きさの石であれば、列車は脱線するようなことはなく、火花を立てて進行するはずであるとの認識を有していたことが推認できる。

そうすると、被告一男は、単なる傍観者ではなく、被告一男ら五人の少年は、置石をすることについては共通の意思を有していたもので、列車の脱線転覆という結果発生については、未必的にもせよ意図していなかつたけれども、本件置石は、以上認定のとおりの特段の雰囲気のもとでなされたもので、かかる特段の事情の存する本件にあつては、被告一男ら五人の少年は、軌条へ石を置く行為が、場合により列車の脱線転覆事故を招来することがあるのを予見すべきであつたのに、前記拳大程度の石であれば列車が火花を立てて石を跳ね飛ばして進行するものと軽々しく信じてその様子を見ようという意思で、前記注意義務に違反してMがした置石を容認、放置した過失により、本件事故を発生させたものであるといわなければならない。

以上のとおりであるから、原告主張のその余の点を判断するまでもなく、被告一男には、民法七〇九条、七一九条により、本件事故により原告に生じた損害を賠償する義務がある。

四  被告力及びハツ子の責任について

1  監督義務違反について

〈証拠〉を総合すると、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  被告一男は、同力及び同ハツ子の長男であり、下に弟妹が各一人おり、五人家族であること。

(二)  被告力は、本件事故当時ゲームセンターの店長として勤める傍ら、不動産業を営んでおり、被告ハツ子はこうもり傘の内職をしていること。

(三)  被告一男は、本件事故前には補導歴はなく、学業成績も中程度であつたこと。

(四)  被告一男は、本件事故当時、ゲームセンターに何回か出入りし、友人らと夜遊びすることもあり、本件事故当日もマラソンの練習の約束で午後八時すぎに友人らと集まつていたこと。

(五)  被告力は、その仕事のため多忙であり、子供と接する機会は少なく、子供の教育は母親である被告ハツ子に任せてあまり干渉することはなかつたこと。

(六)  被告ハツ子は、子供の学校のPTAには普通に出席しており、勉強するように注意するのに対して同一男が言うことを聞かないことを気にかける等子供に対して通常の関心を持ち気配りをしていたこと。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、被告力は仕事が多忙のため自ら同一男に対する日常的な生活規範について指導することはあまりなく、専ら同ハツ子に委せていたことが窺われるが、同ハツ子は同一男に対して格別放任していたわけではなく、全体として子供に対してやや甘い家庭であるにしても、同一男の従前の生活態度(補導歴のないこと等)に照せば、同人に対して保護者として当然になすべき監督義務を怠つていたとまではいうことはできない(なお、本件事故の特発性を考えれば、仮りに被告力らに一般的な監督義務違反があつたとしても、そのことと本件事故発生との間に相当因果関係があるものと認めることはできないものといわなければならない。)。

2  重畳的債務引受又は連帯保証

〈証拠〉によると、次の事実が認められる。すなわち、

(一)  被告力は、昭和五五年九月二二日大阪地方検察庁において、検事の取調べに対し、原告からの損害賠償について自分としては資力の許す範囲内で出来るだけのことはしなければならないと思つている旨述べていること。

(二)  原告と本件事故を発生させた少年らの保護者との間における本件損害賠償に関する示談交渉は、第一回目が昭和五五年一二月一三日に行われ、その後、回を重ね、最終回の示談交渉である昭和五六年一一月三〇日に事故により生じた直接の損害約四二〇〇万円を五等分して一人宛八四〇万円支払うことで、原告と被告一男側を除く四人との間で示談が成立したこと。

(三)  第一回目の示談交渉においては、原告から、損害の概要の説明があり、被告力らが責任は均等であることを前提に話合いをしたい旨回答したが、具体的数額は提示されなかつたこと。

(四)  第二回目以降の示談交渉において、賠償額の詰めに入つたが、第三回目の交渉時に被告力らが一人宛二〇万円計一〇〇万円を持参したが、原告がこれを拒否したこと。

(五)  被告力及び同ハツ子は、最終回の示談交渉には連絡の上欠席し、結果、原告からの提示金額八四〇万円を高いと考えて、最終的に示談に応じなかつたこと。

以上の事実が認められ、右認定に反する証拠はない。

右認定事実によると、被告力側の一連の言動は、保証すべき債務について具体的数額が提示されていない段階において、主として道義的立場から賠償について努力したい旨を表明したものにすぎないというべきであるから(かえつて、賠償額が明示されてその諾否を問われることになる最終回の示談交渉には欠席し、その後応じられない旨の態度を明らかにしている。)、被告一男の債務を引受け又は連帯保証をする趣旨のものとみることは到底できない。

従つて、原告の被告力及び同ハツ子に対する請求は、いずれもその余の判断をするまでもなく、理由がない。

五  損害

前記一の事実に、〈証拠〉を総合すると、本件事故により、原告は、土木関係工事費用として計一五六五万五八〇六円、電気関係工事費用として計三二九〇万九八〇四円(但し、このうち鉄柱及び信号機各二基の建植工事費用については、原価償却引当金を控除したものとする。)、車両新造修理費用として計一七六四万四六一〇円(但し、このうち車両新造費用については、償却引当金及び廃棄した車両のスクラップとしての売却代金を控除し、さらに車両保険として支払われた金員を控除するものとする。)、その他の代行運送費、車両台車運搬費、民家補償費、負傷者治療費及び解決金として計四三五一万五四五二円、以上合計一億〇九七二万五六七二円の損害を被つたことが認められ、右認定を左右するに足りる証拠はない。(なお、〈証拠〉によると、被告一男を除くMら四少年及びその保護者と原告との間において、各八四〇万円で示談が成立し、Kは全額支払い、その余は分割払いを続けていることが認められるところ、その支払額は損害額から控除すべきものであるが、仮に、Mらが全額支払つたものとしても、計三三六〇万円にとどまり、なお、七六一二万五六七二円の損害額が残るから、損害の一部請求である本訴請求の成否には影響がない。)

六  結論

以上のとおりであるから、原告の、被告一男に対する、本件損害のうち、原告主張の限度である金二一八〇万円及びこれに対する本件事故の日の後である昭和五五年二月二一日から右支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める請求については理由があるから正当としてこれを認容し、被告力及び同ハツ子に対する各請求はいずれも理由がないから失当としてこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき、民訴法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条を、それぞれ適用して主文のとおり判決する。

(弓削孟 加藤新太郎 吉川愼一)

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